安田に捧ぐ ピサ「時に触れる」展によせて
レンゾ・ピアノ 建築家
安田侃は稀有な才能をもつ彫刻家だ。
と同時に、石切工でもある。
これぞという石塊を求め、彼は自ら山の懐に潜り込んで行く。
彫刻として存在する以前にそれは採石場ですでに生をうけている。
アプアーネ山脈を自身の故郷とふまえる偉大な彫刻家たちの作品に共通していえることだ。
ノアの洪水によって図らずも流され、道端に置き去りにされた巨大な石の塊
一一概してそんな風貌をもつ彼の彫刻が私は好きだ。
時や水の流れによって滑らかな表面がつくられる。
時に、作品はブロンズに置き換えられる。
その生命力と色艶がそこで失われることはない。
作品をつくりあげるために Kanはじっくりと時間をかける。
ほどよい光を放つまで、粗削りをし、表面をなめらかに磨き上げ、掌のうちに慈しむ。
多くの影刻家がそうしてきたように。
大理石の塊から彫刻がたち現れる瞬間を待ち受けながら、
いつ果てるとも知れない作業を彼は忍耐強く続ける。
安田侃よ、ピサへようこそ、この美しい中世の街へ。
彼がたずさえるその石には、太古からの時間が封じ込められている。
レンゾ・ピアノ
建築家

意心帰 ピサ「時に触れる」展 Photo by Nicola Gnesi